時かけ+温室栽愛

一日で時をかける少女鑑賞と温室栽愛読破をしたら
酷く切ない気分になってしまった。


夜中の三時に目が覚めて、
そのままなんだか眠れなくなってしまった。
思い出すのは恋をして、未練を残した男の事ばかり。
一番好きな人と、一番恋をした男は違うのかもしれない。
隣でのんきに寝息を立てていた相方の背中を
すごく愛しいと思うのに、
考えるのは遠くにおいてきた実らなかった恋のこと。
きっとすごく美化されてる思い出だからかもしれない。
結局、そんな事をずっと考えていたら空が白みはじめて、
ああ、もう寝ないと仕事に支障が出る!って
現実に引き戻されて、眠れたのは午前五時前。


19の時、とても好きになった人がいた。
彼は4つか5つ年上の社会人で、彼女がいた。
二十歳以上じゃないと恋愛対象にならない、と
話していたのを聞いて、早く誕生日がくればいいのにと思った。
二十歳になって、ようやくスタートラインに立った。
とにかく必死で、こっちを向いてほしくて。
でも、何故か彼女から奪ってやろうとは思ってなかった。
彼が幸せならそれでいいとも思っていたからかもしれない。


二人だけで横浜に行った事があった。
花火の予定で行ったのに、何故か花火はあがらず、
結局公園のベンチで夜景を眺めただけだった。
ゆっくりと回る観覧車を見ながら。
「あの観覧車って一周何分くらいなんですかね?」
と私が言ったら、彼はじーっと腕時計をみて
「4分の1回るのに3分ちょっとだから15分くらいかな」
「15分かぁ〜」
「乗りたいの?」


うん。


と言ってしまえば、きっと彼は行こうと言ってくれただろう。
でも、その時私は、15分密室で彼といるという事に
恥ずかしくて耐えられそうになかったので、笑って言った。
「ああいうのはカップルで乗るもんですよ」
あの時に戻れたら、絶対うんって言うのに。
なんて幼稚だったんだろう。


思ってるだけの自分に、なんだか急に嫌気がさして
告白する決心を決めた。
当たって砕けて、すっきりしよう。
一度ですっきりしなかったら、何度でも告白しよう。
そう決めて、彼と出かけた帰りに告白した。
彼の車(シルビアS14だった)の助手席で、声が震えそうになるのを必死で堪えて言った。
面と向かって断られるのが怖くて、俯いたままだった。
彼の答えは、当然「NO」だった。
彼女がいるから、と一言言われた。
私は素早く車から降りて一礼すると、部屋に駆け込んだ。
いつもならアパートの入り口で見えなくなるまで見送るけど
その日は、そんな余裕はなかった。
部屋をドアが乱暴に締めて、鍵をかけて玄関で泣いた。
分かっていた事だけど、やっぱり悲しかった。
そして、やはりすっきりなんて出来なかった。
NOだと言われて、嫌いになる事はできなかったし、
元々彼とはバイト先の友人の彼の友達という
比較的会う機会の多い人だったので、
振られた後も、何度か顔を合わせる事があったから。
そして結局、すっきりするまで三回も告白した。
我ながら諦めが悪いと呆れた。


この、叶わなかった恋を私は何故か忘れられない。
きっと彼との思い出の中に一つもイヤな事がないからだと思う。
色んな話をしたし、二人で飲みにも行った。
横浜の夜景を見て、みんなで千葉に初日の出を見に行った。
疲れてうちで休憩して彼の寝顔を見れたし、
友人の家で鍋をつついたりもした。
どおって事ない思い出なのに、忘れられない。
もう一度会いたいとは思わないけれど、
きっと私にとって彼は、一番恋した人なのかな、と思う。


今、彼がどこでなにをしているかは全然分からないけれど
幸せに笑っていてくれるといいなと思う。